品品喫茶譚

暇さえあれば喫茶店に行く。テーブルの上に古本屋で買った本を広げて、珈琲を飲む。ぼーっと窓の外の風景を眺める。 初めて訪れた街では喫茶店を探し、住み慣れた街に新しい喫茶店を見つけては歓喜する。 喫茶店を中心とした日々の生活記録。

品品喫茶譚 第26回『ルノアール高円寺北口駅前店~阿佐ヶ谷ニューシャドー③』

久しぶりの人との長く楽しい夜を経て、次の日の朝はショパンから始まった。ショパンというのは淡路町の喫茶店であり、私の泊まっていたホテルからすぐ近くなのである。前回、次も飲むところから始まると思わせぶりに、というか、オチをつけるために無理矢理に書いたところ申し訳ないが(誰に申し訳ないのか、わからないが)珈琲をちゃんと朝から飲み、この『品品喫茶譚』面目躍如なのである。が、時間は一気に夜に飛ぶ。なぜならばこの日の昼の記憶がなぜか急に唐突にぽんぽんすぽぽんと抜けてしまったからである。

とにかくこの日から、私は阿佐ヶ谷のほうに宿を移した。

夜は高円寺でやはり人と会った。四人お会いしたうちのお二人はもう十年以上も私のことを気にかけて下さっている恩人である。この日はその方たちの同期のお二人も紹介いただいた。私は嬉しいのと恥ずかしいのと、訪うた店の多国籍感、ホームパーティー感、なぜか急に始まった踊りのために、すっかり舞い上がってしまったため、ほぼほぼ自分から喋らない、そして初対面の方に気を遣ってもらう、という、私がよく陥るやつになってしまったが、皆さん優しくて、楽しくて、本当にいい夜になった。嬉しくてしょうがなかった。いま思い出しても嬉しい。

高架下を高円寺から阿佐ヶ谷まで喋りながらふらふら連れ立って帰った。雨が降ってきて、宿に着くころには止んだ。いや最初から降ってなかったのか。降っていたのか。猫が一匹、居酒屋の閉まったあとに座っていて、こちらを見て「にゃあ」という顔をした。おやすみという顔をして、宿に戻った。


朝、昨晩たしかにどこかのタイミングで教えてもらったニューシャドーという阿佐ヶ谷の喫茶店に行った。店には私とおじいさんしか客がおらず、店のおばさんが厨房の方と喋っている話に、ボソボソとじいさんが口を挟んだところ、声が小さすぎて、おばさんに聞き返されていて、なんというか朝のやりとりっぽかった。店を出ると眩しい眩しい東京の朝だった。ずっとずっと眩しい東京の朝だった。